1/4の純情な感情

パソコンのキーボードを見てほしい。左上に「Q」キーがあると思う。

 

これ、要りますか?

 

※ここから皆さんがローマ字入力をしていることを前提として話を進める

 

「くぁ」「くぃ」「く」「くぇ」「くぉ」

「くゃ」「くぃ」「くゅ」「くぇ」「くょ」

 

以上の言語は「Q」と母音の組み合わせで入力できる文字一覧だ。

心の中に棲む千鳥ノブが「カモの鳴き声.mp3の文字起こしになっとらぁ!」と嘆いている。

 

そもそも普段「Q」キーを文字入力時に使うことがほとんどない。

少し考えてみても「クォーターバック」って入力するとき以外の使い道が思い浮かばない。

アメフト部以外の人間にとって「Q」が無価値であることは疑いようがない事実だ。

 

ということで「Q」キーを「クォーターバック」キーに置き換えるというのはどうだろうか。「Q」を押した瞬間「クォーターバック」と入力される。最高だ。働き方改革が叫ばれる世の中、作業効率を上げることが必要だ。

 

せっかくだから「Q」を連打してみようと思う。

 

クォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバッククォーターバック

 

最高だな。

自己分析

僕は「楽しい顔」ができないことがある。

大人数のグループでのボーリング大会なんか地獄だ。

 

「もっと楽しそうにしたほうがいいよ」

 

そんなことを他人に言われる。くそが。

 

笑ったほうがいい場面なのに斜めの方向を見ながら仏頂面を崩さない。

そんなどうしようもない僕の性格にまつわる一番古い記憶は幼稚園のころのものだ。

 

幼い僕は「公文式」(くもん)に通っていた。ある日、公文式に通う児童のためのクリスマスパーティーで「大豆を皿から皿へ箸を用いて移すゲーム」が行われた。そのレクリエーションで圧倒的なスピードで他を圧倒し優勝した僕はやっぱり斜め下を向いていた。もっと喜んだほうがいいだろ。なぜ優勝しても満足しないストイックなアスリート顔をしているんだ。

 

きっとこれは自分の自意識過剰が原因だと思う。

僕の表情、立ち振る舞いになんか誰も興味がないのに周りを気にしている。

 

でもちゃんとできるときもある。

長い付き合いの友達の前だとわりと簡単にニコニコできる。

むしろやりすぎなくらいニコニコする。なんならヘラヘラする。ガハハみたいなかんじ。

 

そこまで親交が深くない人たちの前では僕はどうしようもない「かっこつけ」であり、慣れ親しんだ友達の前では「調子乗り」なんだろう。

 

どうあがいても恥ずかしい奴だな。

…また自意識過剰な部分が出てきたぞ。

ウォルター・ホワイト症候群

ここのところ僕は自分の将来について悩んでいる。とりあえず大学に入学したのは良いが、どんな大人になるかは想像がつかない。学生の陥りがちなパターンだ。そんな悩みを抱えつつ大学構内をぶらついていると、大学の漫才サークルのライブの看板が目に入った。気晴らしにちょうどいいじゃないか。

 

受付を済ませ座席に着くと隣にちょっと変わったおっさんが座っている。くたびれた服を着てその顔は非常に険しい。池井戸潤原作のドラマの主人公のようだ。そんなおっさんに意識を割かれつつもライブは始まった。

 

「「どうも~!」」

 軽快なテンポの曲が流れ、学生二人が拍手しながら舞台に登場する。客はそれを控えめな拍手で迎え入れる。

 

「今日もお客さん一杯で嬉しいです!女性の方多いですね!え~、端のお客さんから、美人さん、美人さん、一人飛ばして…」

 という具合に様式美的なつかみのネタ振りをボケ担当がはじめる。その瞬間に事件は起きた。

 

「待った!!」

 

 僕の隣の客席のおっさんが立ち上がって叫んだ。ざわつく会場。狼狽える舞台上の二人。声を荒げるおっさん。おっさんを見上げる僕。

 

「申し訳ないがそのボケをさせるわけにはいかないんだ!」

 おっさん、迫真だ。

 

「…なんでですか!」

 ボケの人、ビビりながらも言い返す。偉いな。僕なら怖くて言い返せない。

 

「君の人生はそのつかみのボケがきっかけで台無しになるんだ!!」

 

「なんでそんなこと言うんですか!!!」

 

「…俺は君なんだ!!!!30年後の君なんだ!!」

 

どうやらそうとうヤベー奴だ。となりで口を開けて座っているのは危険かもしれない。というか、そんなボケ一つで人生そんなに変わるのだろうか。いくらなんでも設定に無茶がある。

 

「君…いや俺はそのボケでいつも通り一人の女性を飛ばすんだ。そしてそれがきっかけでライブ後にその女性...いやカオリと話が弾み、付き合うことになるんだ。」

 

前列のカオリらしき女子大生が悲鳴を上げる。会場の空気がいよいよおかしなことになってきた。さっきまで退屈そうにしていた客も前のめりで事態を見守っている。

 

「…あの、付き合うことになるなら別によくないですか?」

 ツッコミの人、その通りだ。たしかに問題なさそうだ。

 

「まぁ聞いてくれ。俺はカオリと付き合い、大学を卒業してすぐ結婚する。仕事も順調で子供も二人授かる。ヒトシとマサトシだ。」

 

とんでもないスピードで人生のネタバレを食らうカオリとボケの人。可哀そうだな。というか子供にダウンタウン二人の名前付けるくらい“お笑い狂人”だったのか。

 

「順調そうな人生に聞こえるだろうが、俺は間違いを起こす。未来の日本では違法のデジタルドラッグが大流行するんだ。恥ずかしいことに俺はそれに手を出してしまったんだ。」

 

「…カオリは関係ないじゃない!」

カオリの友人らしき女子大生が叫ぶ。

 

「俺が手を出したデジタルドラッグはカオリの友人、そう…君に勧められたんだ。カオリと付き合っていなければ君とも出会ってなかっただろう。」

 

絶句するカオリの友人。

そこで客の一人が思わず声をあげた。

 

「あのー…それでも本人が強い意志で拒否すれば良いんじゃないですか?」

 至極真っ当な意見である。そして連鎖的に客席からおっさんへの叱咤激励が飛ぶ。

 

「そうだそうだ!」「人のせいにするな!!!」「おっさん!デジタルドラッグに負けるなよ!」

 

おっさんの目に涙がたまる。もうそこには過去の自分に責任転嫁する汚いおっさんはいない。ただただ猛省するきれいなおっさんが一人いるだけだ。

 

「俺が間違っていた。自分の罪を誰かのせいにしたくてタイムトラベルまでしてしまった。本当に申し訳ない。そして若いときの俺!どうか許してほしい。俺は未来でがんばって生きる!今は思いっきり漫才を楽しめよ!!」

 

おっさんはそう言い放つと強い光と大きな拍手に包まれて消えた。僕は足早にその会場を後にし、すぐさま理工学部への転学部届を教務課に提出した。デジタルドラッグの開発者になる夢を心に秘めて。未来の裏社会を牛耳るのは僕だ。

Cスティックぶんぶん丸

世の中には世界でただ一人、自分だけが知っていたり、気付いているモノやコトがあるだろう。いや、実際には自分以外にもそれを知っている人は居るかもしれないけれど。まぁとにかく僕にはそう思っているモノが一つある。


10年ほど前、僕は父親の仕事の都合で中国の上海という場所に4年間住んでいた事がある。僕は生粋のテレビっ子だったが、上海ではアメトーークリンカーンを見ることができない。せいぜい見られる番組はNHK(世界中で見られるNHKは凄いのだ)のサラリーマンNEOとケータイ大喜利だ。この2つは僕の人生に大きな影響を与えた偉大な番組ではあるが、エンタメに飢えた僕にはちょっと薄味だった。


エンタメストロングスタイルの番組を求めて現地で放送されるチャンネルをザッピングをするものの、何かと中国人の子供がド級の高音域で民謡を歌っている場面を見せられる。そんなチャイニーズドリームを掴もうとする田舎の子供とその親に辟易する日々だったが、ある日とんでもない番組に出会った。


その番組は格闘技の祭典のような体を成している番組でどうやら男女混合のトーナメント方式のようだった。煽りのVTRもそこそこ格好いい。各々、自分の流派?の動きをしてみたり、どこを鍛えているのか分からない修行をする映像が流れる。いよいよ興奮してくるな。まるでバキの「最大トーナメント」だ。


ついにゴングが鳴る。しかし様子がおかしい。対峙する両選手はずっとぴょんぴょん跳んでいる。片足で。そして地についてない方の足は紐でくくられて膝を前に付き出す格好をしている。なんだこれは。両者は膝を突き出し突進する。その突進にさっきの修行は活きているのか?


膝と膝が衝突する度に熱狂する観客席が画面一杯に映し出される。しかし、明らかにその熱狂する観客席は別撮りだ。試合中に見切れる観客席には人っ子一人いないし席のタイプも違う。熱狂する観客席の映像を注意して見るとなんかサッカーのユニフォームみたいなの着てる。もう競技が違う。あまりの新鮮さに決勝戦まで見てしまったが、一回戦の面白さがピークだったな。


この異常な番組を語ることができる日本人はおそらく僕一人だろう。こんな閉ざされた記憶を思い出すキッカケとなったスマブラキャプテンファルコンの空中レバー前入れA攻撃に感謝の気持ちで一杯だ。今日も元気にCスティックをガチャガチャしようと思う。